ネガティブシンキングも悪くはないって話

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五木寛之著「大河の一滴」を読んでの話です。

 この本は、今から25年くらい前に書かれたものです。
 25年くらい前といえば、
   阪神淡路大震災
   酒鬼薔薇聖斗事件
   オウム真理教による地下鉄サリン事件
など、世紀末を象徴する様な事件があったころです。

 この本は、大きく5つのテーマに分かれていて、それぞれが著者の主観的な表現で書かれています。
 5つのテーマの中で本の題名となった「大河の一滴」というテーマについて、自分なりの感想だったり、感じたことをご紹介していきたいと思います。

脱天さん
脱天さん

最近よく書店のおすすめ著書コーナーでみかけるこの本は一体どんな本?

人は皆大河の一滴

 僕はこの本を読んで、非常に新しさを覚えました。

 僕がこれまで読んできた、ビジネス書や哲学書などの自己啓発本は、
   ポジティブであれ
   全ては考え方でポジティブになれる

などと、前向きになることで成功を導いたり、心が楽になるという様なテイストの本ばかりだったため、僕は頭の中で
   ポジティブこそ至高
   ポジティブシンキングの思考を体得しなければ

と考えていました。

 しかし、この「大河の一滴」という本には
   ネガティブ思考はポジティブ思考と同じくらい大事
   ネガティブ思考はポジティブ思考と表裏一体
   ネガティブな状態を承認しよう

という事が書かれていて、そして、「はっ」と気づかされることが多かったのです。

 そして、この本の文章は、決して押し付けがましくなくて、
   これは私の主観ですが…
とか
   …などと思ってしまう訳です。
などと、つらつらと思いを書いている感じで全く嫌な感じがしないのです。

 でも文章には、著者の広く深い知識や見識が垣間見えて、決して軽くなく非常に深い内容になっています。

人生とはおおむね苦しみの連続

「人は生きていく中で耐えがたい苦しみや、思いがけない不幸に見舞われる事がしばしばあるものだ〜腹を立てても仕方がない。人生とはおおむねそういうものだとはっきりと覚悟すべき」

 小さなことから大きなことまで、人は常々なにか「悩み」を抱えていると思います。
 覚悟することで、
必要以上に不幸感を増大する必要はない
ということなのだと思います。
 悩みに直面した時「人生は不幸の連続だから。」という考え方に立ち戻るのが実は重要なのではないか。
 幸福感を養うには、実は、そこに意味があるのではないか。
 そんなテイストで始まります。
 ほほう。なるほどなるほど。と。

なにも期待しないという覚悟で生きる

 「親は子に期待してはいけない。子も親に期待すべきではない。人を愛してもお返しを期待することではない。愛も、思いやりも、ボランティアも、一方的にこちらの勝手でやることではないか。」

 厳しい表現です。
 でも、はっと考えさせられます。
 そして続きます。

 「何も期待していない時こそ、思いがけず他人から注がれる優しさや、小さな思いやりを感じる時、おのずと湧き上がってくる感情こそ、本当の感謝というものだろう。」

 まさにだな。っと思った訳です。
 そういう期待してない時にこそ、心から感動し、感謝するものであって、また、そういう時ってしばしばあるものだから、人生は素晴らしいものだと感じる事ができるのだと思います。

私たちは小さな存在である

 「私達はちっぽけな存在である。と考え直してみたい。どれほど小さな一滴でも、やがて渓流は川となり、平野を抜けて大河に合流する。その流れに身を預けて海へと注ぐ大河の一滴が私達の命だ。濁っていても、汚染されていても、差別なく受け入れて海は広がる。」

 著者は「月並みな表現ですが…。」と断っていますが、非常に深く感銘を受ける一文でした。
 人は、善人もいれば悪事を働く人もいる、楽をしている人もいれば苦しんでいる人もいる、裕福な人もいれば恵まれない人もいる。
 様々ではあるが、それでも全ての人は、大きな流れの中からみると大河の一滴に過ぎないから、海へ出て蒸発して雲となり、また雨水となって地上に注ぐ。生命はそういうものだから、焦る必要も必要以上に悲観する必要はないのではないか?
 そういうことなんだと思います。

私たちは地獄の住人である

 怖い表現ですが、読んでみると「へぇ。なるほど。」でした。

 「人は必ず「死というキャリア」を持って生まれてくる。死や病への恐怖、差別する自己と差別される痛み。怒りと嫉妬。地獄の中に生きているようなものです。」
 しかしその中でも、一瞬、感動したり、感謝したりすることがある。
 そんな瞬間に「極楽」を感じる事がある。

 そして、「極楽」が長く続くことはほとんど無く、またすぐに「地獄」へと戻っていく。

 現実に生きるということは、「地獄」と「極楽」を往復しながら暮らすということであり、そういうものだと割り切って考えてみようということなのでしょう。

本当のプラス思考とは

 このパートを是非皆さんに読んでいただきたいと思います。

 「本当のプラス思考とは、絶望の底の底で光を見た人間の全身での驚きである。そこへ到達するには、マイナス思考の極限まで降りてゆくことしか出発点はない。」

 なんて強い一文でしょう。

 著者は、死んで地獄へ行くのではなくて、地獄に生まれてくるといいます。
 しかし、時として小さな喜び、友情、善意、愛に会う時、希望や夢に世界が輝いてみえ、人として生まれてよかったと心から感謝する瞬間がある。

 その一瞬が「極楽」であって、人が死んだ後にいく場所ではないといいます。

 そういう覚悟であれば、それまでのたうち回って苦しんでいた自分が滑稽で、子供っぽく思えてくるかもしれませんね。

人生は残酷であるのが自然

 「人間は哀しいものであり、人生は残酷であるのが自然だと考える。マイナス思考と恐れることはない。人はみな大河の一滴。ふたたびそこから始めるしかないと思うのだ。」

 僕はこの本を読んでいて、自分がとても小さい人間だと感じました。
 反面、「小さいに決まってるよな。それが当然であり、自然なんだよな。」と考えさせてもらうこともできました。

 ネガティブとポジティブは表裏一体で、ポジティブがいいとか、ネガティブがいいとか、そういう話じゃないんだろうなと思います。

 なんだか、この先、これまで囚われていたような悩みだったり不安に思っていたようなことも、寛大な気分で受け入れることができるかもしれないと感じ、ひとつ見識が増えたような気がします。

 とても良い本でした。
 オススメの一書です。 

 何かこの先、大きな壁にぶち当たった時にもう一度この本を開いてみようと思っています。

 

 

 

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